心電計における時定数は、JIS(日本工業規格)で、3.2sec以上と定められております。 従って、低域遮断周波数は、0.05Hz以下となります。 通常、臨床で使用されている心電計は、この規格に則っております。 時定数を変える事が可能な心電計や、生体アンプでは、時定数を変えると、波形が 大きく変化します。従って、ECGをデジタル化して解析を試みる時は、時定数に対する 配慮が必要になります。 尚、後述の如く、時定数tauと遮断周波数fcには、fc*tau=0.16という関係があり、 時定数から遮断周波数fcを計算するのに便利です。 時定数tau 遮断周波数fc 例 3.2sec 0.05Hz 心電図 0.3sec 0.5Hz 脳波 0.03sec 5Hz 筋電図 それでは、最初に、時定数と低域遮断周波数の関係について述べ、次に、時定数を変える ことで、どのようにECGの波形が変化するか見てみましょう。
上の画像で、左2列は、時定数0.03secのECGです。緑の矢印で示すように、v1,v2,v3で、 rSr'のようにr'波が見られ、v4,v5のT波は2相性です。 真ん中の2列は、同じ被験者のECGで、時定数は、0.1secです。r'波は消えましたが、 青の矢印に示したように、T波は2相性です。 右の2列は、時定数3.0secで、T波の2相性も消失しています。 以上のように、時定数により、T波やQRS、P波も形態が変わりますので、時定数を変える時は、 注意が必要です。
時定数と遮断周波数については、下に示す最後の画像の図の(1),(2),(3)を参照して下さい。 時定数は、立ち上がり時(0%)の傾斜のまま最終点(100%)まで到達すると仮定した時間で 表現されます。 (時定数とは、図2に示すよう、ある状態Aから別の状態Bへ転移する速度の逆数となる値であり、 曲線をY(t)=Y0*exp(-t/tau)や、Y(t)=Y0*[1-exp(-t/tau)]で近似した時のtauである。 これらの曲線は、ある一定値まで、最初は急激に近づき、近づくにつれて変化が鈍くなります。) ここでは、抵抗(R)とコンデンサ(C)の直列に接続した図1のようなCR直列回路を考えます。 時定数は、CR直列回路のコンデンサが最初の勢いのまま、充電し続けた場合の充電時間に 相当します。 時刻t=0で、コンデンサCに蓄積された電荷は、0であり、流れる電流Iは、R/Vとなります。 電流が流れると、Cに電荷が蓄積され、Cの両端の電圧Vc(t)は、増加します。 すると、E=R*i(t)+Vc(t)・・・・・(1)が成り立ちます。 Cに蓄積された電荷q(t)は、q(t)=C*Vc(t)・・・・・(2)という関係があります。 また、i(t)=dq(t)/dt・・・・(3)ですから、(1)、(2)、(3)から E=RC*dv(t)/dt+Vc(t) となり、これは、Vc(t)に関する1次微分方程式で、解は、 Vc(t)=E(1-e^{-(t/RC)})となります。 すると、Vc(t)の傾きは、dVc(t)dt=(E/RC)*e^{-(t/RC)}となり、t=0で、dVc(t)dt=E/RCとなります。 この傾きで、Eに達する時間は、(時定数は、)RCとなります。 この時のVc(RC)=E(1-1/e)で、Vc(RC)=0.63*Eという関係になります。 実測により、立ち上がりのt=0の傾斜を求めるのは、困難ですので、0.63*Eに達する時間を 測定し、時定数としているそうです。 このグラフでは、縦軸が、E、横軸は、時間tである事に注意して、次に図3で、低域遮断周波数の関係を 見ることにしましょう。 CR直列回路は、周波数が低い時は、コンデンサ(C)成分がインピーダンスの大方を占め(Zc=1/(j*omega*C))ます。 また、omega=2pai*fという関係があります。jは、複素数を表します。 周波数が高い時は、抵抗(R)がインピーダンスの大半を占める(Zr=R)回路です。 CとRのインピーダンスの絶対値が等しい周波数を遮断周波数fcといい、 |Zr|=|Zc|からomega=1/RCで、|Zr|=|Zc|となることがわかります。 omega=1/2*pai*f から、fc=1/2pai*RCが得られます。このグラフでは、縦軸は、|Z|、 横軸がomegaであることに注意してください。 fc=1/2pai*RCとtau=RCから、fc*tau=0.16となり、時定数から遮断周波数fcを 計算するのに便利です。 (直流増幅器では、以下のように解説されています。 Zr(実数)とZc(虚数)の大きさが等しい時、ベクトル表示すれば、Zcは、全インピーダンスZの 1/srqt(2)になり、入力電力(0dB)にたいして、この(遮断)周波数fcのところで、1/srqt(2)に 減衰します。これは、デシベル表示で、20*log_{10}1/srqt(2)=-3となり、 fcのところで、-3dBとなります。 従って、遮断周波数fcは、増幅度(dB)の-3dB(1/srqt(2),0.707)に存在するとされています。) 以下のホーム・ページを参考にしました。著者に感謝します。 http://www.di.takuma-ct.ac.jp/~matusita/GuenCAD/QandA/mailList2003.html http://www.orixrentec.co.jp/tmsite/know/know_cr1-52.html http://www.ccad.sccs.chukyo-u.ac.jp/~mito/syllabi/enshu/crTrj/ 久保田博南、木村雄治:"電気の基礎 直流増幅器の特性",Clinical Engineering vol.15 No.2 2004 199-204