[この講は、札幌医大小児科 柳内聖香先生にお願いしました。] WPW(Wolf-Parkinson-White)症候群は、副伝導路を介してより早期に伝わる部分と正常伝導路を介してやや遅れて伝わる部分の融合収縮のため、 脚ブロックに似た心電図を示す症候群で、多くは先天性疾患です。この症候群の心電図上の特徴はPR間隔が短くなり、QRS幅が広くなります。 副伝導路が心室結合する部位により、デルタ波の極性とQRS波形とその極性は変化します。早期興奮時は副伝導路の結合部位の遠くから伝導するため、 副伝導路に近い誘導は陰性の振れ(Q波)を、対側誘導では陽性の振れ(デルタ波)を形成します。顕性WPW症候群では副伝導路の存在部位に 関係なくV4,V5誘導では必ず陽性のデルタ波を呈します。 12誘導心電図による副伝導路の推定方法は多数報告されています。1945年RosenbaumらはQRSの波形からWPW症候群をA型、B型に分類し、 A型は左室後基部、B型は右室側にあるとしました。すなわちA型は心室の早期興奮が左室後方ではじまり右室前方へ広がっていくことにより、 特に右胸部誘導で上向きのデルタ波を示しV1〜V2誘導で高いR波を示します。B型は心室の興奮は右から左に拡がるためV1~V2では 陰性のデルタ波となり深いS波を示します。上田らはB型をV1誘導でrSを示すB型と、Qr,Qsを示すC型に分類し、C型は中隔部に副伝導路があるとしました。 1978年にGallagherらは手術所見との対比から詳細な副伝導路の局在を検討しており、岩らの報告と共に、現在、副伝導路は左室自由壁3箇所, 右室自由壁3箇所,中隔4〜5箇所の計10〜11箇所に分類されることが多いです。 しかし副伝導路を介する興奮が不明瞭な場合,複数伝導路が存在する場合,他の心電図異常を併せ持つ場合など副伝導路の非侵襲的局在診断は これまでの方法では限界があります. 現在ではカテーテルによる心内マッピングが副伝導路の局在の一番確実な診断方法です。 さて、WPW症候群はでは複数の伝導経路が存在するため、興奮が旋回し頻拍発作が生じます。正方向性房室回帰性頻拍は発作性上室頻拍(PSVTまたはPAT) の一つです。心室は正常伝導系を介して興奮するためQRS幅は狭くなります。P波は判別しがたいのですが、心室が興奮した後に副伝導路を介してQRSの後ろの ST部分にnotchとして認識できることが多いです。逆方向性房室回帰性頻拍と副伝導路を旋回する房室回帰性頻拍ではRR間隔は一定ですが デルタ波がありQRS幅は広くなります。 またWPW症候群の20〜30%の症例に心房細動が認められます。この原因は不明ですが、副伝導路切断後は頻度が低下します。WPW症候群に合併した心房細動は、 興奮が副伝導路を経由するため通常の心房細動よりはやい速度で心室に伝わります。QRS幅は広くなり、心拍数は200以上にもなり一見心室頻拍様となり Pseudo VTともよばれています。 日本では心房細動時の最短RR間隔が200〜220msec以下、順行性有効不応期250msec以下、1:1伝導能240/minがハイリスク群の指標となっています。